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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)11265号 判決 1975年8月27日

原告

白石義明

右訴訟代理人弁護士

松田奎吾

外一名

右輔佐人弁理士

池田俊二郎

被告

新日商株式会社

右代表者

周富明

右訴訟代理人弁護士

高橋正則

右輔佐人弁理士

羽生栄吉

被告

株式会社近江屋

右代表者

柴田研一

右訴訟代理人弁護士

金沢恭男

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告が本件実用新権の実用新案権者であること、

本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること及び被告新日商が別紙第一目録記載の食台を製造して被告近江屋に販売し、同被告が昭和四七年六月二五日まで(始期については争いがある。)これを業として使用していたこと、被告新日商が翌二六日右食台を別紙第二目録記載の食台に改造し、被告近江屋が同日以降これを業として使用していることは、いずれも当事者間に争いがない。

二右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は、次の要件からなる被覆を装備するコンベヤ付調理食台であると認められる。

1  調理食台上に側壁を設け、この上面にコンベヤを回動するようにしたこと

2  側壁に支杆を固着し、支杆の頂上に枠を固着架設し、該枠を向い合わせてコンベヤ上に囲繞し、枠に板を取り付けること

3  板と側壁との間に窓を形成すること

ところで、右実用新案登録請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案公報―以下「本件公報」という。)の考案の詳細な説明欄の記載によれば、本件考案は、従来のコンベア付調理食台においては「コンベア上に被覆が無いために回動中のコンベヤに載せてある食品に蠅が留まつたり塵埃が落ちる憂いがあつて食品の欲求者に非衛生的な感じを起さしめるのでこれを防止する」(一頁右欄六行〜一〇行)ことを目的とし、このためコンベヤ上に被覆を施すこととしたものであつて、この被覆を施すための構造として右要件2の構造を採用したものであることが認められる。

そして右要件2の構造における枠は、支杆の頂上に固着架設されるものであり、しかも、その枠は、互いに向い合つてコンベヤ上を囲繞し、その枠に板が取り付けてあることは、前記実用新案登録請求の範囲の記載自体から明らかである。すなわち、枠は、支杆の頂上に互いに向い合つて固着架設されるものであるから、側壁に固着される支杆も、側壁の一側面のみにではなく、他の側面にも、いわば向い合つて固着されるものというべきである。本件公報の図面の第一図及び第三図においては、枠1及び支杆2がともに向い合つているように示されているのであつて、この図面は、本件考案の単なる一実施例を示したものというより、むしろ、右に述べたところから、枠及び支杆の構造に関する本件考案の要件を図示している(枠及び支杆がともに向い向い合つている。)ものというべきである。しかして、本件考案の前記構成要件3の「板と側壁との間に窓を形成する」とは、板と側壁との間に、支杆によつて、コンベヤの両側に窓状の空間が形成されることをいうものであることが明らかである。

さらに、本件公報の考案の詳細な説明欄中に「コンベヤB上に被覆を施し両横側に窓3を設けて内側からはコンベヤB上に食品を載せ易く、外側からは取出し易くするために被覆せる板AはゴンベヤB上の食品を出し入れ易き限度内に枠1と側壁4との間隙を縮小して窓3に蠅の侵入を防止する様にしたのものである。」(一頁右欄一〇行〜一五行)、「因に飛行中の蠅は食品に対して斜横から飛び入るよりも上部から下に向つて飛ぶ習性が多いこと、コンベヤの回動のため横側の窓3からの侵入が稀であることの実験上の好結果に所期の目的を達成することを得たものである。」(一頁右欄一六行〜二〇行)との記載があり、この記載と図面とを参照すれば、本件考案における前記2の構造のうち、「該枠を向い合わせてコンベヤ上に囲繞し、枠に板を取り付ける」とは、枠がコンベヤを全幅にわたつて被覆することを意味するものというべきである。

そして、以上のような構成をとることによつて、前に述べた本件考案の目的とするところを達成することができるものということができる。

三以上に述べたところを前提に、本件考案と被告らの食台を対比する。

被告らの各食台を表示したものであることについて当事者間に争いのない別紙第一、二目録の各説明書及び図面によれば、被告らの各食台は、いずれも食台1の上方に立設された支柱1'を介して側壁(コンベヤガイド)2(別紙第一目録記載の食台にあつては、2、2'と表示される)が設けられ、この上面をコンベヤが回動するようになつているコンベヤ付調理食台であるところ、別紙第一目録記載の食台において、側壁に添うようにして食台1の支持台4の側板に固着されている逆L字型支杆5の上辺上に枠6、6'が固着架設され、該枠6、6'を向い合わせてコンベヤ3に平行して設け、枠6、6'にガラス板7が取り付けられているが、支杆5は、コンベヤ3の内側の側壁2に添うようにして下端を食台1の支持台4の側板の一側に固着して取り付けられているのみで、外側の側壁2'には支杆が取り付けられていないから、ガラス板7は、側壁の両側に向い合つて固着されている各支杆の頂上に固着架設された枠に取り付けられているとはいえないし、また、別紙第二目録記載の食台において、側壁2に添うようにして食台1の支持台4の側板に固着されている逆L字型支杆5'の上辺上にコンベヤの全長の一部を全幅にわたつて覆うよう長方形箱型のたね入れ戸棚8、8を固定するほか、右同様支持台4の側板に固着されているT字型支杆5の上辺上の両端にL状柵6、6'、その中間に逆L状アングル7、7がそれぞれ固着架設され、該L状柵6、6'を向い合わせて前記たね入れ戸棚8、8及び10部分を除きコンベヤ3に平行して設け、柵6、6'にガラス板11が取り付けられるとともに、右たね入れ戸棚8の一側にガラス板13がさらに載置されているが支杆5、5'は、ともに別紙第一目録記載の食台の場合と同様コンベヤ3の内側の側壁に添うようにして下端を食台1の支持台4の側板の一側に固着して取り付けられているのみで、外側の側壁には支杆が取り付けられていないから、コンベヤ3の上方に位置するよう設けられているたね入れ戸棚8、8、ガラス板11及び13は、側壁の両側に向い合つて固着されている各支杆の頂上に固着架設された枠に取り付けられているということはできず、そうとすれば、被告らの各食台は、本件考案の要件2に該当する構造をすべて備えておらず、3の要件をも充足していないものである。

さらに、別紙第一、二目録の各説明書及び図面によれば、別紙第一目録記載の食台において、ガラス板7は、これを取り付けている逆L字型支杆5の上辺がコンベヤ3の全幅に及んでいる関係上、コンベヤ3をその全長、全幅にわたつて被覆しているが、別紙第二目録記載の食台においては、逆L字型支杆5'の上辺上に固定されているたね入戸棚8、8(その長さ合計二七七センチメートル)、T字型支杆5の上辺上の両端に10部分を欠いて架設されている柵6、6'に嵌挿されているガラス板11及び右ガラス板11上にして、かつ、前記たね入れ戸棚8の一側に載置されているガラス板13(その長さ一二七センチメートル)がコンベヤ3(その幅11.4センチメートル)に平行するようにして囲繞していて、右たね入れ戸棚8、8は、前記のようにコンベヤ3の全幅を覆うものの、その前記長さからみて、コンベヤ3の全長のうち二七七センチメートル部分(本件口頭弁論の全趣旨によれば、コンベヤ3の全長の約四分の一と認められる。)を被覆するにすぎないものである。そして、コンベヤ3の全長の約四分の三に該当する残余の部分は、10部分において前記のようにガラス板11を欠くため、該部分については、全然被覆されず、また、その他の部分については、ガラス板がコンベヤ3上に張り出しているが、張出部分は、幅11.4センチメートルのコンベヤ3の内側端から約一センチメートルの僅少であり、なお、右ガラス板11のうちの長さ一二七センチメートル部分上にはより幅の広いガラス板13が載置されているが、これによる張出部分もコンベヤ3の内側端から約4.7センチメートルであつて、コンベヤ3の全幅の二分の一にも足りない。従つて、別紙第二目録記載の食台においては、たね入れ戸棚8、8、ガラス板11及び13によりコンベヤ3の上面を全面にわたつて被覆しているものということができず、ひいては、コンベヤ上の食台に上方から蠅が飛び入つたり、塵埃が落下付着することを防止するという本件考案の効果を期待することもできないものであるから、この点においても本件考案の要件2に該当する構造を欠くものである。

また、被告らの各食台はコンベヤの外側(客側)には支杆がないから、外側には本件考案でいう窓が形成されないものであることは前説明のとおりであり、外側に窓が形成されないことによる被告らの各食台の、本件考案にかかる食台に見られない長所は、弁論の全趣旨によれば、被告らが主張するとおり(寿司皿をコンベヤ上に載せてそれが回動運搬される途中において、客側に支杆があれば皿がそれに衝突することを避けるような配慮をする必要がなく、また客が皿を取り出す際も、皿が支杆に触れることがないよう配慮する必要がないこと。)であると認められる。

以上説示のとおりとすれば、被告らの各食台は、いずれも本件考案のその余の要件と対比検討するまでもなく、その技術的範囲に属しないものといわなければならない。

四よつて、別紙第一、二目録各記載の被告らの食台が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の被告らに対する本訴請求は、爾余の点につき判断を加えるまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(高林克巳 小酒禮 清水利亮)

第一、二目録、図面<省略>

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